氷河流域からの土砂流出の機構に関する研究
―アラスカ・ガルカナ氷河を例として―

Sediment Discharge from a Glacier-Covered Drainage Basin:
Gulkana Glacier, Alaska
知北 和久1・城戸 大作2・中津川 誠3
Kazuhisa CHIKITA, Daisaku KIDO and Makoto NAKATSUGAWA
1北海道大学大学院理学研究科助教授
2北海道大学大学院理学研究科大学院生(博士課程)
3北海道開発土木研究所環境研究室室長
要旨

夏期の氷河表面から生じる融解水流出は、融解期が進むにつれその流出特性が変化する。この原因として、氷河表面を積雪面と裸氷面とに分ける雪線(snow line)の標高が上昇していくことで、氷河内と氷河底にある流出経路の形状と分布が時間的に変化するため、と考えられている。アラスカ・ガルカナ氷河におけるこれまでの観測では、融解・降雨に対し応答の早い流出と遅い流出があることが見いだされた。さらに、その年の気象条件に依って、流量と土砂流出量の両方が急激に増大する、“イベント”現象が起こることがわかった。この現象の原因として、雨水と融解水の氷体内貯留が氷河底水圧を上昇させ、これにより堆積物を含む氷河底貯水槽の破壊が起きたため、と推測される。ここでは、観測で得られた流量と土砂流出量の時系列に対しタンクモデルを適用し、氷河底貯水槽の破壊に対するタンクを新たに設けることで、二つの時系列の再現が可能であることを示す。

《キーワード:雪線;流出経路;氷河底流路;PDD法;タンクモデル;流出解析》