遅れ系による流出解析と流域スケール

Runoff Analysis Based on the Delay System and Catchment Scale
藤田 睦博
Mutsuhiro FUJITA
北海道大学工学研究科教授
要旨

本年度の(財)北海道河川防災研究センターの研究補助による研究成果を土木学会論文集投稿中である1 ) . したがって,本報告書は投稿論文を理解し易く解説したものになっている.

1 ) 任意の規模の河道網流域において,斜面流出がkinematic wave 式で記述できるもとし,河道流出はdynamic wave 式,diffusion wave 式,kinematic wave 式の3 種類のモデルを用いて,降雨量と流域の任意の地点における流出量間の等価周波数伝達関数を誘導した.したがって,同一地点でも3 種類の等価周波数伝達関数を求めることができる.

2 ) 上記で求めた等価周波数伝達関数を用いて,遅れ系の係数を求める式を誘導した.同一地,点で3 種類の遅れ系の係数を計算できることになる.

3 ) 一般的に,平地部流出解析ではdynamic wave 式を使用し,山地部になるとkinematic wave 式を用いてもdynamic wave 式の解とほぼ同様な解を得ることができることが知られている.実用的には,採用すべき流出モデルと地形条件関係が重要である.Dynamic weave 式より求まる二つの無次元パラメータによって,モデル選択が可能であることを明らかにした.また,ここで誘導した二つの無次元パラメータには,地形量以外に平均降雨量が関与している.同一地,点において,中小規模の降雨であればkinematic wave 式を利用できても,大規模の降雨になるとdiffusion wave式やdynamic wave 式を利用しなければならない場合もある.

4 ) ある部分流域に着目すると,dynamic wave 式,diffusion wave 式では,下流流域の水位の背水の影響を受け,上流側流域より流入量がある.したがって,dynamic wave 式, diffusion wave 式の遅れ系の係数が連立2 階微分方程式の境界値問題の解として与えられることになる.これらの基礎式を初期値問題に変換する手法を提案している.計算時間を大幅に短くすることができた.

5 ) 流域のスケール問題に関しては,同一の流域を各種のスケール(具体的には,デジタルマップのメッシュサイズを変化させる)で地形量を求め,遅れ系の係数を比較することによって流域スケールの効果を把握できる.

《 キーワード:非線形分布定数系流出モデル,等価周波数伝達関数;遅れ系;集中化》