戦略的環境アセスメント手法を用いた
河川整備システムに関する研究

A Study on River Improvement Systems Using Techniques of Strategic Environmental Assessment
加賀屋誠一
Seiichi KAGAYA
学博 北海道大学大学院 工学研究科 教授
(〒060-8628 札幌市北区北13西8)
要旨
平成9年改正された「河川法」は河川管理の目的として、「治水」「利水」に加え、「河川環境」の整備と保全が位置づけられた。また新たな計画制度として、河川基本方針は河川審議会の意見を聞いて定め、河川整備計画は地方公共団体の長、および地域住民の意見を反映させて定めることとなった。それに即応して河川環境をどう位置づけ、また地域住民の意見をどう反映させるかの具体的な議論が必要となってきている1)。
本研究は、近年欧米で議論が盛んになってきている戦略的環境アセスメント手法を河川計画立案に適用し、その取りまとめの支援システムとして活用することを目的としたものである。戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment-SEA)は、早期の段階で政策、計画、事業プログラムにおいてのアセスメントおこなう手法であり、計画アセスメントの一種として、計画段階のアセスメントと従来の環境アセスメントといった双方の性格を持ち合わせている2)。その手法についてはこれまで確定されたものはなく、それはむしろ思想を捉えたものだとの解釈もできる。したがって、具体的な手法の確立は、今後必要になり、その考え方を提案することが、ここでの大きな目標といえる。その考え方については、具体的な手法を含め、実際例についてその妥当性と可能性を検討したことが、本報告の要点である。第1の具体的な検討では、河川計画における技術的、制度的情報の提供者としてまた最終的な調整者としての行政、意思決定にとって必要な地域ニーズ所有者としてまた参加者としての地域コミュニティおよび、それらの間で情報の明確化、意見の整理調整を行う組織の3つの間での様々な意思決定プロセスを構築することである。また第2の検討は、それらのプロセスの間での情報整理支援システムとしての方法論を導入あるいは開発である。これらの検討点は、それぞれ全体の意思決定プロセスとして組み立てられ、それぞれのダイナミズムの下で活性化される。
組み立てられたプロセスモデルは、十勝川の一部河川計画を例として検討され、可能性の議論が進められた。
ちなみに、国土交通省は河川整備計画を作る段階で、環境への影響を評価し周辺住民に公表する制度を導入する方針を固めている(朝日新聞2002年12月12日付)。ここでは、事業計画の時点で実施していた環境影響評価を実質的に前倒しし、ダム事業など複数案を住民が選択できるようにすることを考えている。具体的には複数案の設定とその理由、分析手法などをまとめた計画書を周辺住民や専門家に公表し意見を反映させ、その結果を報告書として示し、複数案から事業選択ができるようにするとしている。本方針は、上記SEAの概念に添ったものであり、本報告の広範な論議を期待している。