山地河川の河道実態に基づく土砂流出モデルの構築

Model Construction for Sediment Runoff from Mountain Rivers Based on the Actual Channel Morphology
長谷川 和義
Kazuyoshi HASEGAWA
北海道大学大学院工学研究科教授
要旨
治水・利水ともに良好な河川環境を維持するためには,流域を一貫する土砂の調和のとれた輸送が重要になる.これらの課題に答えるためには,流域のどの場所にどの程度の堆積・浸食が生ずるか,降雨の違いによるその発現の違いはどのようなものかにつき,合理的推定がなされる必要がある.本研究は,山地河川に見られる流路・河床形態の実態,すなわち水深数倍スケールの小規模河床波,川幅数倍スケールの中規模河床波,ならびに谷幅スケールの大規模河床波の存在に着目してこれらの河床形態と土砂移動の関係を明らかにしようとするものである.昨年度は,小規模河床波が破壊を受けない流量レベルにおける土砂輸送機構を調べモデル化を図るとともに,中規模河床波のもたらす効果につき調べた.今年度は,実体が不明であった分岐合流を伴う大規模河床波の形成機構を調べるとともに,それらの土砂輸送に果たす機能について実験的に詳しい検討をおこなった.その結果,以下の興味深いことがらが明らかになった.
(1)大規模河床波は,大流量時に形成される複列砂礫州が起因して生ずる.(2)その後の中小の流量時において,分岐部が交互に閉塞・開通を繰り返し土砂移動に関して重要な影響をもたらす(交番現象).(3)閉塞・開通に関連して,下流部水路の侵食・埋め戻し(堆積)が発生する.(4)閉塞・開通の交番現象は,中規模河床波である交互砂礫州の分岐部での前進流下が関わってもたらされるが,交番周期は必ずしも交互砂礫州半波長の通過時間に一致しない.すなわち,交互砂礫州のもたらす水流の偏りが主水路への流砂量を過剰なものとし,閉塞を引き起こすとともに,もう一方の分岐水路を主水路にする働きをしている.(5)水理条件の違いに応じて交互分級波(平坦河床でありながら,粗粒径の河床材料と細粒径の河床材料が砂州状に交互に分かれる河床状態)が発生し,これが交番現象に関わることがある.