等価周波数応答法を用いた流出解析

Runoff Analysis Based on The Equivalent Frequency Method
藤田睦博
Fujita Mutsuhiro
北海道大学工学研究科環境資源工学専攻教授
要旨

線形系の解析に威力を発揮した周波数応答法も, 非線形系の解析には無力である. 唯一の例外して,制御工学分野で用いられている等価周波数伝達関数を挙げることができる. これは, 入力信号を周期関数に限定し, 不動帯や飽和要素などの非線形要素を通過した出力信号を用いて, 入出力間の周波数特性を解析している.Ruwai and Fujitaら1) は,既に不動帯や飽和要素などの非線形要素を非線形分布定数系流出モデルに置換し, 降雨量と流出量間の等価周波数伝達関数を求める手法を提示している.Ruwaiand Fujitaらは,Saint Venant式を含みこれから派生するDiffusion wave式,Gravity wave式,Kinematicwave式を解析対象としている. これらの式を斜面域に適用し, 降雨量と斜面末端からの流出量間の等価周波数伝達関数を求めている. 得られた結果は, 以下のように要約できる.
(1) 入力を周期関数にしたとき,非線形系に特有な出力に生じる高調波成分に関しては,上述流出モデルでは無  視できる.
(2) 非線形流出系では, 平均雨量が等価周波数伝達関数のパラメータになっている.
(3) 入力関数を周期関数に限定しなければならない制限は,実降雨量をフーリエ級数展開して与えることによ  って,任意の入力関数まで拡張できる.したがって,この制限条件を考慮する必要がない.得られた等価周波  数伝達関数は,周波数領域で分布定数系の流出モデルを集中化したものと考えることができる. 実流域は  多数の斜面と河道により構成されている. 各構成要素の等価周波数伝達関数を合成すると降雨量と流域か  らの流出量間の等価周波数伝達関数を求めることができる.本研究は,山地流域を対象にして,斜面,河道と  もにkimematic wave式の適用を適用して,流域全体の等価周波数伝達関数を求め,さらに,これを2,3次遅れ  系で近似できることを示している.これらの成果は,土木学会論文集に投稿中2)であるが,本報告はこれ  に補足説明を加えたものである.

≪キーワード:流出解析;等価周波数伝達関数;kinematic wave法;集中化;2次遅れ系≫